小窩裂溝(歯の噛み合わせの面にある溝)にできる、むし歯のでき方は、う蝕円錐という形でむし歯はできます。(主に隣接面でできる平滑面う蝕は、唾液の流れも関係するので、別述します。)
う蝕円錐とは
・小窩裂溝齲蝕
エナメル質は正三角形で、象牙質は逆三角形
裂溝の小さい穴から、虫歯菌が侵入して、象牙質で広がるために、エナメル質の穴は小さいけれど、歯の内部(象牙質)でむし歯が乳酸をだして歯を溶かすことで進行するといわれています。
むし歯菌だけが、乳酸の発生源と考えられてきましたが、歯の内部の歯髄の細胞も、糖のエネルギー代謝が障害されれば、乳酸を発生します。
(解糖系代謝)
歯髄腔には、リンパ系がなく、酸欠を起こしやすい極めて閉鎖的な空間という特殊環境です。
(Eur J Oral Sci. 2020 Oct;128(5):365-368. doi: 10.1111/eos.12733. Epub 2020 Aug 14.)
歯髄腔内で産生された大量の乳酸は、象牙芽細胞によって、象牙芽細胞突起の末端にはこばれるために、象牙芽細胞末端部であるエナメル質と象牙質との境目に最初に乳酸が蓄積していきます。
乳酸によって象牙質は酸性になるために、象牙質に埋入されていたMMPが活性化して、象牙質コラーゲンを溶かし、乳酸の中和のためにカルシウムが溶かされていきます。
(Monogr Oral Sci. 2017;26:97-105. doi: 10.1159/000479351. Epub 2017 Oct 19.
New Preventive Approaches Part II: Role of Dentin Biomodifiers in Caries Progression)
(J Dent Res. 1998 Aug;77(8):1622-9. doi: 10.1177/00220345980770081001.
The activation and function of host matrix metalloproteinases in dentin matrix breakdown in caries lesions)etc
この酸性環境でも生きられる菌が乳酸のもちろん産生して歯を溶かす補助をしますが、「結果」としてう蝕部に存在しています。
(Characterization of mleR, a positive regulator of malolactic fermentation and part of the acid tolerance response in Streptococcus mutans. BMC Microbiol. 2010 Feb 23;10:58. doi: 10.1186/1471-2180-10-58.)
う蝕の実態は、代謝の異常による宿主側の乳酸の産生と、その乳酸の処理の失敗によって、耐酸性能力の強い菌が「結果」として存在していると考えることもできそうです。